佐々木譲著「笑う警官」警察組織VSただの中年刑事と有志たち

読書
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こんにちは、たどんです。
今回は、北海道の札幌の街を舞台にした警察小説「笑う警官」のご紹介です。

簡単なあらすじ

札幌のとあるマンションの一室で、女性警察官の他殺体が発見された。
被害者は、北海道警察本部防犯総務課所属の元ミス道警でもあった美人警察官であった。
事件は、管轄の大通署から道警本部が指揮する捜査本部に引き継がれた。
捜査本部では、被害者の交際相手であった、やはり道警本部の銃器薬物対策課に所属する津久井巡査部長を容疑者として特定する。
さらに捜査本部は、津久井巡査部長が覚せい剤の常習者でけん銃を持っている可能性も高いことから、発見確保の際には津久井の抵抗如何によっては射殺もやむなし、との命令も出た。
そのあまりにもスピーディーな捜査の進展に疑問を持った者がいた。
過去に容疑者の津久井巡査部長とペアを組み、苦労をともにした大通署刑事課の佐伯警部補である。
佐伯は、津久井に連絡をとったところ、無実である旨訴えた。
また津久井は、翌日には北海道警の不祥事について、北海道議会の百条委員会に証人として出席することになっていることを知る。
佐伯は、津久井に証言されては困る北海道警の上層部が、津久井を犯人に仕立て上げ、射殺して証言できないようにしていると判断。
そこで佐伯は有志を募り、津久井の無実を証明し、翌日の百条委員会に送り届ける決意をする。
津久井の無実を信じる佐伯は、有志とともに裏の捜査本部を結成する。
猶予は1日しかない。
佐伯は津久井の無実を証明し、無事百条委員会に津久井を送り届けることができるのか。

「笑う警官」を読んだ感想

スピーディーなストーリー展開

著者佐々木譲は1950年生まれ。
「警官の血」などの著作もある日本の警察小説の第一人者です。
・ オール讀物新人賞(1979年)
・ 山本周五郎賞(1989年)
・ 日本推理作家協会賞(1989年)
・ 直木三十五賞(2010年)
などの文学賞を受賞しています。
そんな著者の筆力がストーリーの展開をスピーディーなものにしています。
冗長な文章はあまりなく、純文学的な要素は少ないかもしれませんが、私のような者にとってはその方がありがたい。

憧れの北海道が舞台

著者佐々木譲は北海道夕張の出身。
だからなんでしょう、この「笑う警官」は、札幌を中心とした北海道が舞台になっています。
私と妻は北海道が好きで、毎年でも旅行に行きたいと思っています。
昨年も、テレビドラマ「北の国から」の影響で、富良野に行きたいという妻のリクエストに答えて、富良野、小樽、札幌の3泊4日の旅行に行ってきました。
日頃の行いが悪いのか、北海道に行っている間ずっと雨。
妻は近いうちにもう一度リベンジで富良野に行きたい、とのたまわっています。
札幌という街は本当に碁盤の目のようなまちづくりになっているんですね。
私は札幌には2〜3回行っているので、札幌の地理もなんとなく頭に入っています。
自分が行ったことのない場所が舞台の小説を読んで、その場所に思いを馳せる、というのも楽しいです。
逆に、自分が行ったことのある、だいたいの地理の分かる場所が舞台になっている小説を読むとより内容がわかりやすい、とも言えます。
私なんかは北海道が舞台の本書には親近感がわきますね。

ちょっとありえない設定ですが

本書では、主人公ら警察官が、私設の捜査本部を作り、真犯人を突き止めようとします。
捜査本部に従事してない人間が、その捜査データを利用・活用などできるはずもありません。
また、上層部の不祥事隠しのためとはいえ、現役の警察官に対し「射殺命令」など下せるはずはありません。
でも勘弁しちゃいましょう。
小説は面白ければいいんです。

警察の裏金の歴史

本書は、北海道警裏金事件をヒントに執筆されたようです。
北海道警裏金事件とは、2003年11月に北海道警で不正経理、つまり税金をちょろまかしていたことが発覚し、その後北海道警の幹部等多くの処分者がでた事件です。
その昔、1984年に、松橋忠光著「わが罪はつねにわが前にあり」が出版され、ベストセラーになり、私も読んだ記憶があります。
この本は、警察庁の元キャリアが、警察内部の不正経理などを暴露した告白本です。
国会でも取り上げられるなど話題にはなりましたが、その後ウヤムヤになってしまいました。
これだけ問題になったことがあるので、北海道警も少しはおとなしくしていれば良かったのに、ずっと不正経理を続けていたんですね。
官公庁だけでなく一般の会社でも、きちんと帳簿に載せられないような支出があるであろうことは少しは理解できます。
しかし、不正を取り締まる立場にある警察が、国民の血税をちょろまかしてはいけません。
松橋忠光著「わが罪はつねにわが前にあり」で不正経理が問題になった時、全国の警察も不正経理とはスッパリ縁を切ればよかったのに。
情けないですね。
官庁でも民間でも、不正経理で得をするのはいつも上層幹部だけ。
下の者はいいように使われて終わりです。

射殺命令?

やさしい日本の警察が、どこぞの外国みたいに犯人に対し「射殺命令」など出すことがあるんだろうか?
それが昔あったんです。
「射殺命令」というより「狙撃許可」だったと思います。
それは、1970年に発生した、いわゆる「瀬戸内シージャック事件」です。
乗客を人質に旅客船を乗っ取り、ライフル銃を乱射した犯人を狙撃し、人質を救出した事件です。
でも、あの時だって犯人に説得に説得を重ね、最終手段として狙撃しました。
本書のように、覚醒剤常用者でけん銃を持っている可能性も高いからといって、逮捕の際抵抗したら射殺もやむなし、なんていう命令が出るはずはありません。
平和な日本では先ずありえないことです。

タイトル「笑う警官」について

外国の警察小説で同名の小説があります。
マイ・シューヴァル、ペール・ヴァールー著「刑事マルティン・ベック笑う警官」です。
私はこの本を読んだことがあったので、最初本書のタイトルを見て戸惑いました。
しかし、日本人佐々木譲が書いた全く別物の小説だということがわかり読んだんです。
本書は最初「うたう警官」だったそうです。
でも、文庫化される際「笑う警官」となったようです。
「うたう」というのは「歌う」の意味なのか?
いや違います。
警察用語で「うたう」と言う時、それは、「自白する、告白する」という意味の隠語なんです。
一般の人には分かりづらいだろう、ということで「笑う警官」というタイトルに変えたようなんですが、「うたう警官」の方が小説の内容とあっているように思います。

まとめ

話があっちこっちに飛んでしまいました。
本書「笑う警官」は、2009年に映画化され、2013年にはテレビドラマ化されています。
やはり原作にかなうものはないと思いますが、興味のある方はどうぞご覧になってください。
映画では、津久井巡査部長役を雨上がり決死隊の芸人・宮迫博之が演じています。
「笑う警官」、なかなか面白く読みました。
佐々木譲の小説、私個人としては「笑う警官」よりも「警官の血」の方が面白かったかな?
今回は、最近読んだ「笑う警官」を紹介させていただきました。
しかし、以前読んだ「警官の血」もいずれご紹介したいと思っています。
 

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